1990年代RPGが現代に蘇る。悪いところも蘇る Sea of Stars感想

正直言って後半からノーマルエンドまでかなりしんどく、さっさとクリアさせてくれという気持ちが勝ったのは否めないが、周りのレトロRPG好きは楽しそうに遊んでいるので、私のRPG苦手が非常に悪く作用したのは間違いない。非常に豪華で、褒めたいシーンはたくさんあるゲームだったので、とりあえずゲーパスで遊んでみることをおすすめする。

 

クロノトリガー』『マリオRPG』など、数々の名作スーファミRPGの魂を受け継いでいると噂され、世界中から期待されていた『Sea of Stars』が発売し、周辺のクロノトリガー・マリオRPGファンは大いに沸いていた。

しかし私はスーファミRPGは『マリオRPG』くらいしか遊んだことが無い。『クロノトリガー』についても去年やっとリメイク版をクリアし、非常に凝ったストーリーやドットのビジュアルには打ちのめされ素晴らしいゲームだと実感しながらも、戦闘の古臭さや難易度の低さによる眠さはどうしても気になり、「やっぱり……当時プレイしておけばよかったな……」と後悔したのは記憶に新しい。

そんなレトロRPGに乗り切れない気持ちを持ちながらも、「2023年にレトロRPGを出す。それも、素晴らしいセンスや音楽、近代的なARGを楽しませてくれた『The Messenger』の会社が」という事には期待していた。レトロRPGをどう近代的にアレンジし、楽しませてくれるのか。値段の高さ(4400円)は多少気になったが、それも自信の表れだろう。(ゲーパス対応しているので値段は高ければ高いほどうれしいまである)

実際に遊んでみると、ドットで描かれる圧倒的なビジュアル、美しい音楽、タイミングを模索しながら遊べるインタラクト要素のあるコマンド戦闘、凝ったミニゲームなど、このゲームを待ち望んだ人が真に思い描いた理想が前半まではあったと思う。

そう、前半までは完璧だった。このゲームを作ったのは『The Messenger』の会社だったのである。まさか次作でも驚きや衝撃のために妙に冗長な展開を強いてくるとは思わずかなり笑ってしまったが、2作も続くとなるとこういうセンスなんだとしか説明できない。

2作とも大好きな部分と大嫌いな部分が2極化していて、大きく話すと前述した「冗長さ」で説明できるのだが、Sea of Starsに関してはそれでは説明できない要素も多い。やはりレトロRPGを近代的にアレンジしたというよりは、いいところも悪いところもそのまま伸ばしたようなゲームに感じる。当時のRPGを今でも楽しめる人は最高の体験になるだろうし、そうでない人は……という感じだ。

(ここから先、悪口が2000文字以上続いていました。ファンの方は気分を害すかもしれないのでお気を付けて……)

自分の中では許容できない点が2点ある。「スキルの少なさ」と「ダンジョンの謎解き」だ。

スキルが少ない

マリオRPGクロノトリガーともいうべき戦闘は非常に面白い。特に相手の行動を中断させられるスロットシステムは大好きなLibrary of Ruinaのような戦略性を感じられると同時に、残しておくべきリソースを複雑化させることにも成功していて、ボス戦は最後まで楽しくプレイできた。

問題は通常戦闘で、各人がMPを利用して打てるスキルが最後まで3種類しかないため、一瞬で飽きる。インタラクト戦闘のために「バトル高速化」や「エフェクトスキップ」を廃しているため、こちらで調整できない苦痛があった。

しかも、「ムーメラン」「毒の疾風」といった全体+多段の非常に使いやすい攻撃に限って技の使用時間が長い……この2つの技を見ている時間が長すぎて、数時間にも及んでいるような感覚すらある。

また、非常に面白いと思った相手の技を中断させられるシステムだが、中盤から後半にかけて「別に撃たれても問題ない」くらいの攻撃と化すのは正直どうかと思った。「打たれたら半壊する」技は多少存在しても、「厄介な状態異常に陥る」といったいやらしいペナルティが無いので、良く言えばサクサクプレイできるし、悪く言えば緊張感が無い。通常戦闘はさらにそんな感じなので非常に眠くなる。結局全滅したのは裏ボスのような扱いの闘技場だけだった。

ダンジョンが面白くなさすぎる

ジャングルや岩山、水中といった多様なシチュエーションで描かれるドットと、シチュエーションが変わるたびにコロコロ変わるのにどの曲も聞きほれてしまうような楽曲で彩られているにも関わらず、ダンジョンは心の底から面白くなかった。今まで遊んだゲームでも最悪かそれに近い単調さだと感じる。

例えば、鍵がかかっている場所がある→隣の部屋に宝箱があり、その中に鍵が入っている→戻って鍵を開けて次に進む。という感じで、これは誇張でもなんでもなく何度もこのようなギミック(?)が登場する。

中には凝った(面倒くさい)パズルもあるが、先ほどのカギおつかいのように「手順が1通りしかないギミックを順番に触っていくだけ」のダンジョンがあまりにも多い。右の道の一番遠くまで行ったあと、左の道の一番遠くまで行くと、真ん中の道が開く。途中で強制に近いシンボルエンカウントが何度か挿入されるが、ただただそれの繰り返しだ。おもんないんじゃ。

序盤はルートごとにそれなりの長さで戦闘や中ボスが挿入されるので達成感があるためあまり気にならないが、終盤はプレイヤーが飽きてきたのを察知したからなのか、前述のように非常にコンパクトでお使いチックなギミックが続くため、「今なんでカギかかってたの」という違和感がずっと付きまとう。

クリア後に歯ごたえのあるパズルがいくつか用意されているのだが、それを見る限りダンジョンのパズルに関しては手を抜いているか、「クリアできないかも」とプレイヤーを信頼していないような印象がある。我々はもっと難しいパズルを用意されても解けるはずだ。

ダイナミックでアイディアにあふれるカットシーンや、繊細なドット絵で楽しませてくれるゲームとは思えないほどの単調さ、面白くなさがダンジョンではずっと続くのは本当に残念だった。

難解なのか何も考えてないのかわからないストーリー(ここからストーリーネタバレあり)

ストーリーは主人公2人よりも「ガール」という幼馴染がメインで進行していくのだが、このガールを好きになれるかどうかでかなり評価が分かれると思う。

明るく前向きで出会う人みんなが好きになる。そんな素晴らしい人間として描かれるのだが、なんだか宗教的でとても気持ち悪かった。なぜそんなに「良いヤツ」なのかといった理由が説明されないので、なんだか乗り切れなかったのが正直なところである。

というか、説明されないのはガールの素性だけではない。語り部の「レシュアン」と倒すべき敵として語られる「エフォラル」が何をしようとしているのか結局不明なままなので、「これで世界が平和になった」と高らかに宣言されてもしこりが残る。中盤、ガールがまるで信託を受けたかのように「これとこれとこれをすれば全てうまくいく」と語りだすシーンは茫然としてしまった。「なぜ?」はレトロでもJRPGが一番大事にしてきた部分ではなかろうか。

うっすらとタイムリープ・ループものであることは示唆されるので、いろいろこねくり回して「考察」すれば納得できなくはないが、まっすぐストレートと見せかけて実は複雑でしたというストーリーラインを展開するなら、ちゃんと説明してもらえる方が自分としては好みである。もやもやを解決したうえでラスボスを思いっきり殴らせてほしかった。

前作のARGの伏線が少し回収されたような状態だが、ただ「レトロなRPGが面白そう」という動機で始めた人にとってこれはあまりに酷な仕打ちではなかろうか……そういう意味で、制作側に配慮がなく何も考えてないのか、多くの人を置き去りにする選択をあえて行ったうえで壮大なストーリーを展開しようとしているのかは図りかねる状態だ。DLCも出るようなので手のひらをかえすような壮絶な伏線回収を期待したい。

そんなわけでプレイ中、「こんなに精巧なビジュアルを打ち出す人々が何も考えてないわけがない」という信頼と、「隻眼キャラのガール、立ち絵とドットのケガしてる目逆じゃない…?」みたいなことをするゲームという不信感。いったいどちらに振れればいいのかわからないという感じが常に付きまとうのであった。


とは言っても、光るシーンは非常に多い

散々悪口ばかり羅列してきたが、中盤の弔いのイベント、星の海を越えるシーンなど声が出るほど良いシーンは存在する。

ストーリーもすっきりしなかったり、訳知り顔のつぶやきがあまりにも多いなどのイラっとするシーンはあるが、全体を通してみればかなり楽しめたのも事実。

トゥルーエンドの蛇足感は否めないものの、そこに至るかいがら集めやサブイベントなどは非常に楽しかった。ここをこんなに遊び心を持って作りこめるなら、なぜダンジョンがああなってしまったのか。光るところが多いゲームなだけに、非常にもったいないと感じてしまった。

一番笑ったのはトゥルーエンドの条件を見ることができる場所で「虹のかいがら」の少女がフラッシュバックする演出。大爆笑してしまった。

一番怒ったのは「ただの3択を5回クリアする」というどうかしているとしか考えられないミニゲームである。